トルコ国家情報機構(MİT)のイブラヒム・カルン長官は、イスタンブール会議センターで開催されたTRT Worldフォーラム2026で、「国際法と人道的崩壊が交錯するガザ」と題するパネル討論に先立ち、演説しました。
今年で10回目を迎えるフォーラムは、「中心なき世界:ルールが通用しなくなったとき、誰がリーダーシップを発揮するのか」をテーマに開催されています。
カルン長官は、道徳を欠いた政治は盲目的になり、社会的・政治的な権威を伴わない道徳は無力になると強調し、現在の世界情勢には、こうした現実が表れていると述べました。
また、ガザはパレスチナ人の歴史の一部であると指摘しました。ガザ問題を、より広いパレスチナ問題から切り離して考えがちですが、ガザはパレスチナの一部であり、パレスチナはすべての人々の正義、尊厳、平等を求める闘いの一部だと強調しました。
さらに、この闘いは単なる「一片の土地」をめぐるものではなく、世界共通の価値観や普遍的な原則を守るための闘いでもあると訴えました。
多極的な新たな世界秩序の模索
カルン長官は、現在の世界秩序が明確な目標や方向性を持たないまま、さまざまな方向へ進んでいると指摘しました。
そして、西側諸国、特にアメリカとヨーロッパを中心とする世界秩序に代わり、複数の中心を持つ新たな世界秩序が模索されていると述べました。
一方で、その新たな秩序がどのような形になるのか、誰にも分かっていないとして、次のように語りました。
「では、これに代わるものは何なのでしょうか。これから築かれる新たな世界秩序に、誰が道徳的、法的、人道的な原則をもたらすのでしょうか。
私たちが直面しているのは、極めて混沌とした、不確実で予測不可能な状況です。国際社会全体を統治する仕組みの実現は、かつてないほど困難になっています」
カルン長官はさらに、新たな秩序を築くための強固な基盤となる制度や原則、理念、社会的・政治的な構想も存在していないと指摘しました。
その上で、次のように述べました。
「政治秩序の崩壊と道徳的責任の破綻によって、人間として生きるための最も基本的な土台が破壊されているパレスチナは、間違いなく、こうした事態が最も深刻に表れている場所の一つです。
もちろん、損なわれ、崩壊しているのは制度や国際条約だけではありません。
私たちが普遍的だと信じてきた道徳的原則や価値観、規範そのものが揺らいでいるのです。
ガザはその歴史の一部であり、パレスチナの歴史や記憶と切り離して考えることはできません」
「問題はパレスチナではなく、占領にある」
カルン長官は、「パレスチナ問題」という表現自体が適切ではないとの考えを示し、次のように述べました。
「問題はパレスチナではありません。問題は占領にあります。
しかし残念ながら、『パレスチナ問題』という言葉は、私たちの日常的な言葉遣いや用語の一部として定着してしまいました。
私たちは、まるでパレスチナ人自身に問題があるかのように、いつも『パレスチナ問題』と呼んでいます。
しかし、それは正しくありません。問題は占領なのです。
占領を終わらせない限り、中東に解決も平和も正義も訪れません」
カルン長官は、近年、パレスチナをめぐって世界的な意識の高まりと新たな覚醒が見られると指摘しました。
また、トルコがカタールやエジプトとともに仲介役を務め、ガザでのジェノサイドと危機を終わらせるために行ってきた取り組みや、その過程について説明しました。
さらに、二国家解決の実現に向けた努力を決して諦めないと強調し、次のように述べました。
「私たちは、1967年の境界線を基礎とし、東エルサレムを首都とする独立国家をパレスチナ人が手にしたときにのみ、この地域に平和が訪れると信じています。
そのとき初めてパレスチナ人に正義がもたらされ、イスラエルとの真の平和も実現できるのです」
カルン長官は、こうした解決がイスラエル人を含む中東のすべての人々の利益になると述べました。
また、MİTの情勢分析でもこうした点を重視していると説明し、ガザとパレスチナの問題、そしてこれらの地域で占領が続くことによって、新たな過激化の波が引き起こされる可能性があると警告しました。
カルン長官は、この点を懸念しているとして、次のように語りました。
「パレスチナの地で命が奪われ、抑圧が続けば続くほど、人々の姿勢はさらに強硬になり、過激化していくでしょう。
それが人間の本質なのです」
「パレスチナをめぐる新たな覚醒の時代が始まった」
カルン長官は、深い絶望や暗闇、無力感、苦痛に覆われた時代に、驚くべき変化が起きていると述べました。
そして、その暗闇の中に希望の光が差し込み、パレスチナ問題をめぐる新たな覚醒の時代が始まったと指摘しました。
また、ガザでのジェノサイドによって、イスラエルの「占領、強制移住、悪魔化」の政策が持つ限界が明らかになったとの見方を示しました。
カルン長官は、世界各地で人々が声を上げ始めており、こうした動きは自然発生的に広がったものだと強調しました。
その上で、次のように述べました。
「誰かが人々にこの動きを押し付けたわけではありません。
ヨーロッパやアメリカ、そして世界各地の小さなコミュニティーの中から、自然に生まれたのです。
これまでパレスチナの大義とはあまり関わりがないと考えられてきた人々の間にも、この動きが芽生えました。
そして長い年月を経て、パレスチナ問題は世界規模の支持層を獲得したのです」
カルン長官は、世界規模で人々の共通の良心が目覚め始めていると強調しました。
この動きは、政治的な立場や社会的背景の違いを超えて広がり、文化や宗教の境界も越えていると述べました。
また、あらゆる階層や立場の人々が参加していると指摘し、これはパレスチナ問題だけでなく、世界の正義と平和にとっても歴史的な瞬間であり、従来の考え方が大きく転換する節目になる可能性があるとの見方を示しました。
「パレスチナの平和は、失われた道徳的・政治的秩序を取り戻すことを意味する」
カルン長官は、ガザとパレスチナの状況を正常化することが、崩壊した国際秩序を再び立て直す出発点になると述べました。
そして、次のように語りました。
「それは、世界秩序とそれを支える道徳的秩序についての私たちの認識や理解、そして道徳的責任のあり方を、世界規模で変えるきっかけになるかもしれません。
つまり、パレスチナにおける平和と尊厳、自由を求める闘いは、分断された世界で私たちが失ってしまった道徳的・政治的秩序を取り戻すことを意味しているのです」
カルン長官は、こうした取り組みがすべての人々にとって希望と励みの源となるべきだと強調しました。
その上で、パレスチナの地から中東全体へ、さらに世界全体へと、正義を通じて平和を実現する努力を続けなければならないと訴えました。
また、今後も多くの困難が待ち受けており、決して容易な道のりではないと指摘しました。
そして、アメリカとイスラエルで行われた選挙後の政治的変化によって、今後の政治情勢がどのように形作られるのかを見極める必要があると述べました。
最後にカルン長官は、パレスチナをめぐって新たな政治的枠組みの構築や体制の再編が進む可能性について、以前よりも希望を持っていると語りました。






















