政府は、社会・経済の基盤を支えるサプライチェーンの脆弱性を踏まえ、既に指定されている「特定重要物資」の対象を拡大する検討に入っています。
報道によると、無人航空機(ドローン)や船体部品、人工衛星・ロケット部品、磁気センサー、医療用人工呼吸器(ベンチレータ)など「5物資程度」を新たに指定する方向で調整していると伝えられています。
この動きは、単なる品目追加にとどまらず、安定調達を確保するための支援体制を構築し、経済刺激策の一環として今年度補正予算案に盛り込む可能性もあるとされています。
「特定重要物資」とは、経済安全保障推進法に基づき、「国民の生存に不可欠な、または広く国民生活・経済活動が依拠する重要な物資」であって、供給途絶などのリスクが高いと認められるものを政令で指定する制度です。
たとえば、2022年12月には抗菌性物質製剤、肥料、永久磁石、工作機械・産業用ロボット、航空機部品、半導体、蓄電池、クラウドプログラム、天然ガス、重要鉱物、船舶の部品の11物資が指定され、さらに2024年2月には先端電子部品(コンデンサーおよびろ波器)が追加されています。
指定されると、所管大臣が策定する「安定供給確保取組方針」に基づいて、民間事業者が「供給確保計画」を提出し認定を受けることで、助成・融資・信用保証といった支援を受けることが可能です。
報道では、政府が新たに指定を検討しているのは以下の物資です。
無人航空機(ドローン)
船体部品(船体そのものを含め検討)
人工衛星・ロケット部品
磁気センサー
医療用人工呼吸器(ベンチレータ)
特に船体については、既に「船舶の部品」が指定対象となっているものの、国内造船トン数の低下や人材不足を背景に、船体自体を指定対象に含めることで、海上輸送に依存する日本の物流・経済基盤を強化する狙いがあります。
また、ドローンについては、農業・建設分野だけでなく、軍事・監視用途でも世界各国が競争を深めており、日本でも戦略的確保が必要とされています。
一方、人工衛星・ロケット部品、磁気センサー、ベンチレータについては、それぞれ海外依存が強く、需要増を前提に国内サプライチェーンの再構築が課題となっています。
政府は、これらを経済刺激策の一環と位置付け、今年度の補正予算に関連費用を盛り込む方針です。
報道によると、対象の追加を「政令改正」で年内成立を目指しており、指定と同時に国内生産・研究開発の支援を強化します。
また、支援対象となるのは「設備投資」「研究開発活動」「備蓄・多元化対応」といった幅広い取り組みで、指定物資の供給確保を官民連携で進める枠組みが整備されつつあります。
政府が「特定重要物資」の指定範囲を拡大しようとしている動きは、国際情勢の不透明化やサプライチェーンの脆弱性を背景に、安全保障・産業政策双方を視野に入れた取り組みといえます。
指定が実現すれば、当該物資を扱う企業にとっては支援機会が拡大する一方、国内産業としては「安定供給体制」を事前に構築することが求められます。
特に、造船・無人機・宇宙・医療といった分野では、今回検討されている品目の追加が産業構造にも影響を与える可能性があります。
今後の注目点としては、政令改正のスケジュール、補正予算の具体額、支援制度の運用開始時期、そして産業界の準備状況や反応です。企業・投資家・研究機関はいち早く制度設計を注視し、対応を検討しておくことが望まれます。







