2025年のノーベル化学賞は、京都大学高等研究院の北川進特別教授をはじめ、オーストラリアのリチャード・ロブソン氏、アメリカのオマー・ヤギー氏の3人に贈られました。
スウェーデン王立科学アカデミーは、3人が金属と有機分子を組み合わせた新素材「金属有機構造体(MOF)」の研究を通じて、物質科学の可能性を大きく広げたと評価しています。
MOF(メタル・オーガニック・フレームワーク)は、金属イオンと有機分子を組み合わせて構築される結晶性の素材で、内部には分子レベルの細かな空隙が規則的に並んでいます。
その構造により、特定のガスや分子を選んで吸収・放出できるため、二酸化炭素の回収や水の生成、エネルギー貯蔵など、環境技術や産業利用の幅が急速に広がっています。
北川氏は1990年代から、このMOFを“呼吸するように機能する物質”として発展させ、ガスを可逆的に取り込む材料設計を追求してきました。
彼のグループが示した、柔軟さと安定性を兼ね備えた構造モデルは、世界中の研究者に新しい視点を与えました。
ロブソン氏は、金属と有機分子を組み合わせて結晶構造を形成する概念を早くから提唱し、MOFの理論的基礎を築きました。
ヤギー氏はその後、実用面を意識した高い安定性を持つ構造を確立し、応用研究を加速させました。
三人の成果は互いに影響し合いながら発展し、現在のMOF研究の礎を形づくりました。
スウェーデン王立科学アカデミーは発表で、「彼らは化学に新たな空間を創り出した」と述べ、分子設計によって自在に機能を生み出す時代を切り開いたと評価しました。
受賞が発表された直後、北川氏は京都で記者会見を開き、「この栄誉に深く感謝しています。私たちの研究が持続可能な社会づくりに少しでも役立てばうれしいです」と述べました。
さらに、「空気中から特定の分子を選び取り、それを資源として活かすという構想をこれからも追求したい」と、研究への意欲を語りました。
今回の受賞により、日本人のノーベル賞受賞者は通算30人となりました。
化学賞の分野では、2019年に受賞した吉野彰氏以来9人目で、日本の基礎科学研究が引き続き世界から高く評価されていることを示しました。